2006年01月23日

●実証産業組織論の講義メモ(1)

BLPその1(1995)Econometrica
BLPその2(1999)AER
BLPその3(2004)JPE

国際経済への応用として、
Berry, Pakes and Levinsohn(1999)AER (輸出自主規制の効果)
Brambilla (2004)mimeo           (関税同盟の効果)
Thomas(2005)mimeo             (多国籍企業の戦略)
を紹介する予定です。

シラバスや講義ノートは登録していればオンラインで入手できるのですが、この授業はもぐりなので今のところ入手していません。そのうち登録している人に頼んで入手する予定ではあります。

とりあえず、最初の数回分については、講義の内容は
Julie MortimerのHarvardでの講義ノートでほぼ完全にフォローできると思われます。
http://www.courses.fas.harvard.edu/~ec2610/
(いつまで講義ノートがダウンロードできるかはわかりません)

静学的分析に必要なもの
(1) 需要システムについての知識
(2) 費用システムについての知識
(3) 均衡についての制度的背景についての知識

どういった種類の均衡が実現しているかどうかは制度についての知識で判断する。均衡が複数ある場合、どの均衡が現実的かを統計的に判断する方法については後の授業でカバーするみたいだ。

均衡についての知識に基づいて、
各企業の価格(もしくは数量)を
・その企業自身の状態変数(その企業の費用関数、財の性質)
・産業内の他企業の状態変数
・その他の外生変数(要素価格、財需要に影響する要因、税金など)
の関数として導出する。

次にその価格と数量に基づいて、各企業の利潤を以上の状態変数の関数として導出する。


静学モデルの前提

1 今期の価格数量)決定が来期の需要に影響しない
(ネットワーク外部性、耐久財の価格設定、共謀による価格維持などを扱えない)

2 今期の価格(数量)決定が来期のコストに影響しない
(経験による学習、生産平準化行動などを扱えない)


動学モデルの種類

1 2期モデル(参入行動の分析)

2 多期間モデルだが戦略的相互関係なし

3 多期間モデルで戦略的相互関係あり

2005年11月22日

●補完性、垂直統合、比較優位

ハーバード大のPol Antrasの報告。

Contracts and the Division of Labor
(with Daron Acemoglu and Elhanan Helpman)

Grossman-Hart-Moore流の所有権理論のモデルに、
(1)サプライヤーを複数にし、サプライヤーの投資間に補完性を導入し、
(2)契約の不完備性のパラメータを導入したうえで、
契約の不完備度が高くなると、分業の度合い(独立したサプライヤーの数)と生産性が減ること、特に補完性が大きい産業で顕著にその効果が現れること、結果として、契約の不完備度が国々の間の比較優位の要因になりうることを示していた。

サプライヤー間の行動、技術に補完性があるとメーカーの垂直統合の意思決定がどのような影響を与えるか
ということを明示的に分析したのはこの論文が初めてだと思われる。しかしこのモデルで説明できる現象などがあるのかどうかは不明。

2005年11月02日

●中国における外資企業と新製品導入

Irene Brambilla (Yale)の報告を聞いた。

博士号を最近取ったばかりの人だが,途上国の産業組織の研究で
面白い論文をいくつか書いている。この日は,
Introduction of New Varieties of Goods in the Chinese Manufacturing Sector
の報告を聞いた。

中国における外国企業は地元企業より新製品の導入が盛んであるということと,
その源泉が技術力の優位にあることを実証していた。

Melitz(2003, Econometrica)のモデルを拡張して、各企業の製品の数を内生化したうえで、新製品開発に関わる固定費用と開発した費用を生産するための変動費用という2種類の費用が低い(生産性が高い)企業ほど多くの製品を導入するという含意を導き出している。

そして中国に進出している外資企業は中国国内企業よりも生産性が両種とも高いと思われるので、より多くの新製品を導入しているであろうという仮説を世界銀行の企業パネルデータを用いて検証している。そして,開発のための固定費用と生産のための変動費用のどちらがより重要かを検証しようとしている。

実証結果としては
調査期間(1998-2001年)中に外資企業は中国国内企業よりも導入した数が多い,
生産関数の推定ではTFPは外資系のほうが有意に高い,
開発の固定費用も100%外資系に限れば外資系のほうが有意に低い,
外資系は自社で新製品開発を行う頻度は低く,外国(本社)から製品を移転している頻度が高い。
TFPのほうが固定費用よりも新製品導入数を説明している。
という結果になっている。

外資系企業は本社などですでに開発済みの商品を持ってこれて,生産のノウハウもあるから(中国市場にとっての)新製品導入を国内企業に比べて容易に行えるということだと思われる。

外資企業のほうが新製品導入が活発であるということを主流のモデルの拡張できちんと説明し,かつ,モデル上
重要な説明要因(開発費用と生産費用)についても実証しているいう意味で,理論と実証が密接に結びついた
研究になっている。

非説明変数によって資本ストックがコントロールされていたり、いなかったりするのですべての被説明変数ですべての定式化について言及したほうが望ましいこと、市、産業ダミーはコントロールされているが、その交差項もコントロールしたほうが望ましいことなど、実証面での細かい改善点はある。

外資(直接投資)が企業の生産性を向上させるかどうかについては多くの実証研究がされているが、成長率の高い企業に資本参加しているのか、外資の資本参加が生産性向上をもたらしているのかを厳密に識別できている実証研究は(私の知る限り)ない。(ただ、識別できていると主張して書かれたが実際にはできていないことをおそらく誰かに指摘されてそこの部分の主張を引っ込めた論文はあった。)この論文での外資企業はすべて外資系が自ら設立したか、最初から設立に参加しているものなのでこの問題の影響は小さくなっている。と同時に、この結果を直接投資一般に適用することができるかどうかについては若干の留保が必要となっている。

また,中国やインドが技術進歩面で他の途上国と異なる点は,多国籍企業によって外国から技術が移転されているだけではなくさらに新技術の開発も行われていることであると指摘されてきている。他の国での研究と比較するためには新製品導入の中身をもっと知る必要があると思われる。

あと,新製品導入が国内向けか輸出向けが分かれば途上国の技術発展についてもっと含意が得られていたかもしれない。論文の結果では輸出の規模は生産性をコントロールすると新製品導入と相関をしていないが,生産性と輸出が高く相関しているからかもしれないので,このことから直ちに新製品導入は主に国内消費者向けに行われているとは言えないかもしれない。

2005年10月04日

●垂直的合併はライバル企業のコストを高めるか


UCバークレーからGilbertが来て報告。

"Market Power, Vertical Integration, and the Wholesale Price of Gasoline."

産業組織論では企業がライバル企業の直面する中間財価格を上昇させるために,中間財を供給する企業(上流企業)を吸収合併しているのではないかという仮説がある。この垂直的合併がライバル企業のコストを高めるかという仮説をカリフォルニアの地域ごとのガソリン産業の産業構造データと卸売り価格データから実証しようとしていた。1997年に製ガソリン業者(Unocal)を小売り業者(Tosco)が買収していて、その合併による地域レベルの産業構造変化を自然実験的に用いているので垂直的合併の効果をきれいに推定している、というのが著者たちの言い分のようだ。しかし、使っているデータは12地域×128週のパネルデータなので、買収による所有権の移転のスピードが地域間で異なっていたという事情でもない限りは、産業構造の変動は買収以外の要素が大きく影響しているような気がしてならない。が、そこらへんは論文を読んでもよくわからない。

でも、合併による(地域)産業構造の変動によって産業構造(S)と企業行動(C)や結果(P)の因果関係を実証するという手法は応用可能性が広そうだとは思った。自然実験を使った実証は他にはBerry and Waldfogel, “Do mergers increase product variety? Evidence from radio broadcasting,” Quarterly Journal of Economics, vol. 116, pp. 1009-25, 2001.が有名どころか。