2005年11月22日

●補完性、垂直統合、比較優位

ハーバード大のPol Antrasの報告。

Contracts and the Division of Labor
(with Daron Acemoglu and Elhanan Helpman)

Grossman-Hart-Moore流の所有権理論のモデルに、
(1)サプライヤーを複数にし、サプライヤーの投資間に補完性を導入し、
(2)契約の不完備性のパラメータを導入したうえで、
契約の不完備度が高くなると、分業の度合い(独立したサプライヤーの数)と生産性が減ること、特に補完性が大きい産業で顕著にその効果が現れること、結果として、契約の不完備度が国々の間の比較優位の要因になりうることを示していた。

サプライヤー間の行動、技術に補完性があるとメーカーの垂直統合の意思決定がどのような影響を与えるか
ということを明示的に分析したのはこの論文が初めてだと思われる。しかしこのモデルで説明できる現象などがあるのかどうかは不明。

2005年11月16日

●企業の生産性の異質性が貿易量に与える影響の実証

Tom Chaney(シカゴ大)の

Distorted gravity: Heterogeneous Firms, Market Structure and the Geography of International Trade
の報告を聞いた。

貿易を行うときの障壁が低下したときに貿易量がどれだけ増えるかは、各財の需要の代替弾力性に正に依することがKrugmanのモデルによって示されていた。代替弾力性が大きいと貿易コストの低下で輸出入品の価格が下がったときにそれだけ国内品から需要を奪うからである。しかし、その分析は産業内の企業の生産性が同質であることを前提にしていた。この論文は生産性にばらつきがあるケースでは、財の需要の代替弾力性の影響は正反対になることを示している。生産性にばらつきがあるケースでは,一部の高い生産性を持つ企業しか輸出しない。この場合貿易コストが低下したときにはすでに輸出していた企業が輸出量を伸ばす効果だけでなく,新たに外国市場に参入する企業が出てくる効果も出てくる。後者の効果は代替弾力性が小さいほど大きい。新たに参入する企業は輸出企業の中では比較的生産性が低いので代替の弾力性が小さくて市場競争が激しくないときほどより多く輸出することができるからだ。この後者の効果が大きいと,需要の代替弾力性が小さいときこそ,貿易を行うときの障壁が低下したときの貿易量拡大効果は大きいことになる。

さらに、それをGravity Equationという国際経済学で2国間の貿易量の要因を分析する際に頻繁に用いられる手法を用いて実証している。具体的にはサンプル中の任意の2国間の財ごとの貿易量をGDPや財の代替性や貿易コストの指標,およびそれらの交差項に回帰して,貿易コスト指標と財の代替性指標が正になるかどうかを実証している。

最近の国際経済学は企業の生産性のばらつきを独占的競争一般均衡分析に取り入れることで貿易に関する定型的事実をこれまでよりうまく説明できるようになったり、豊富な実証的含意を生み出したりしている。(Melitz(2003)Econometricaの項目を参照)この論文の貢献は企業の生産性のばらつきがどのように貿易パターンに影響するかについて新たな視点と証拠(そんなに強くはないけど)を追加したこと、よく使われる実証手法で実証できる含意を得たことだと思う。

報告者は2005に年PhDを取って就職したばかりの人だ。
論文そのものの評価とは異なるけど、大学院生の立場から見ると、偉大な古典的モデル(この場合はKrugman(1980))と最近の流行の理論モデルの双方から正反対のインプリケーションを導き出してどちらが正しいか実証するというのは、実証結果が(意味をなすものである限り)どちらに転んでもみんなが興味を持ってくれる論文になるという意味で非常に賢い戦略だと思う。理論もできるとこういう戦略が取れるということで理論をがんばる意欲が増した。

2005年11月02日

●中国における外資企業と新製品導入

Irene Brambilla (Yale)の報告を聞いた。

博士号を最近取ったばかりの人だが,途上国の産業組織の研究で
面白い論文をいくつか書いている。この日は,
Introduction of New Varieties of Goods in the Chinese Manufacturing Sector
の報告を聞いた。

中国における外国企業は地元企業より新製品の導入が盛んであるということと,
その源泉が技術力の優位にあることを実証していた。

Melitz(2003, Econometrica)のモデルを拡張して、各企業の製品の数を内生化したうえで、新製品開発に関わる固定費用と開発した費用を生産するための変動費用という2種類の費用が低い(生産性が高い)企業ほど多くの製品を導入するという含意を導き出している。

そして中国に進出している外資企業は中国国内企業よりも生産性が両種とも高いと思われるので、より多くの新製品を導入しているであろうという仮説を世界銀行の企業パネルデータを用いて検証している。そして,開発のための固定費用と生産のための変動費用のどちらがより重要かを検証しようとしている。

実証結果としては
調査期間(1998-2001年)中に外資企業は中国国内企業よりも導入した数が多い,
生産関数の推定ではTFPは外資系のほうが有意に高い,
開発の固定費用も100%外資系に限れば外資系のほうが有意に低い,
外資系は自社で新製品開発を行う頻度は低く,外国(本社)から製品を移転している頻度が高い。
TFPのほうが固定費用よりも新製品導入数を説明している。
という結果になっている。

外資系企業は本社などですでに開発済みの商品を持ってこれて,生産のノウハウもあるから(中国市場にとっての)新製品導入を国内企業に比べて容易に行えるということだと思われる。

外資企業のほうが新製品導入が活発であるということを主流のモデルの拡張できちんと説明し,かつ,モデル上
重要な説明要因(開発費用と生産費用)についても実証しているいう意味で,理論と実証が密接に結びついた
研究になっている。

非説明変数によって資本ストックがコントロールされていたり、いなかったりするのですべての被説明変数ですべての定式化について言及したほうが望ましいこと、市、産業ダミーはコントロールされているが、その交差項もコントロールしたほうが望ましいことなど、実証面での細かい改善点はある。

外資(直接投資)が企業の生産性を向上させるかどうかについては多くの実証研究がされているが、成長率の高い企業に資本参加しているのか、外資の資本参加が生産性向上をもたらしているのかを厳密に識別できている実証研究は(私の知る限り)ない。(ただ、識別できていると主張して書かれたが実際にはできていないことをおそらく誰かに指摘されてそこの部分の主張を引っ込めた論文はあった。)この論文での外資企業はすべて外資系が自ら設立したか、最初から設立に参加しているものなのでこの問題の影響は小さくなっている。と同時に、この結果を直接投資一般に適用することができるかどうかについては若干の留保が必要となっている。

また,中国やインドが技術進歩面で他の途上国と異なる点は,多国籍企業によって外国から技術が移転されているだけではなくさらに新技術の開発も行われていることであると指摘されてきている。他の国での研究と比較するためには新製品導入の中身をもっと知る必要があると思われる。

あと,新製品導入が国内向けか輸出向けが分かれば途上国の技術発展についてもっと含意が得られていたかもしれない。論文の結果では輸出の規模は生産性をコントロールすると新製品導入と相関をしていないが,生産性と輸出が高く相関しているからかもしれないので,このことから直ちに新製品導入は主に国内消費者向けに行われているとは言えないかもしれない。