2005年09月26日

●米国の関税削減がアフリカの対米輸出に与える影響

トロント大学のGarth Frazerがアメリカの対アフリカ関税優遇政策(African Growth Opportunity Act: AGOA)がアフリカ諸国の対米輸出量に与えた効果の実証分析を報告した。

"Trade Growth under AGOA," with Johannes Van Biesebroeck, working paper

政策の影響を受けた国、財、と受けない国、財があることを利用して、Triple Difference推定量 (DDのコントロールグループが1つ増えたもの)を使っていて、貿易政策の実証としては非常に注意深い実証だったと思う。

Triple Difference推定量のメリットをその名の通り3段階で説明してみる。(分かっている人は飛ばしてください。)
第一段階:Difference
たとえばこの関税優遇政策(以下AGOA)の効果を見るために一時点でAGOA対象国の対米輸出と非対象国の対米輸出を比較してみたとする。そうすると,AGOA対象国の対米輸出は非対象国の対米輸出よりも少ないという結果になるだろう。アフリカ諸国はそれ以外の国よりGDPが低く輸出量も小さいからだ。しかしこのことをもってAGOAは輸出量に悪影響を与えているとはいえない。単純な比較ではAGOA対象国と非対象国のもともとの違いを考慮(コントロールできない。)

第二段階:Difference in Difference
そこで今度はAGOA実施前後のデータが手に入る状況を考えてみる。(1)AGOA対象国の対米輸出のAGOA実施前後の変化と(2)非対象国の対米輸出のAGOA実施前後の変化を比較してみたとする。(1)でAGOA実施前後の差をとることで,AGOA対象国固有の要因は差し引かれる。同様に(2)ででAGOA実施前後の差をとることで,非AGOA対象国固有の要因は差し引かれる。ということで,変化(difference)の差(difference)をとるこのdifference in difference法を用いることで時間を通じて変化しない各国固有の要因をコントロールすることができる。AGOA対象国の対米輸出のAGOA実施前後の伸びが非対象国の対米輸出のAGOA実施前後の伸びより大きければそれはAGOAのお陰でしょ,というわけだ。

ところが問題点はまだある。この方法では時間を通じて変化する各国固有の要因はコントロールできない。たとえば,成長しそうな国(アフリカ)がAGOAの対象となっていたのかもしれない。この場合対象国の輸出が非対象国に輸出に比べて大きく増加していたとしても、AGOAの効果というよりも、全体的に成長率が高い国がAGOA対象国となっていただけかもしれない。

第三段階:Triple Difference
そこで,一国の中でもAGOAの対象になる財とそうでない財があるとする。もしそれらの財にAGOA対象財かそうでない財かということ以外の体系的違いがないとすればAGOA以外の当該国の経済環境変化が財輸出に与える影響も平均的には同じはずである。そこで,もう一段階差を取って,
(対象国のAGOA対象財の輸出の伸び-対象国の非AGOA対象財の輸出の伸び)
-(非対象国のAGOA対象財の輸出の伸び-非対象国の非AGOA対象財の輸出の伸び)
を計算することで時間を通じて変化する各国固有の要因もコントロールできると考えられる。(同じロジックで時間を通じて変化する各財固有の要因もコントロールできる)

もちろんそれでもバイアスは生じうる。たとえば,アフリカ諸国とそれ以外の国で比較優位と国際的分業のパターンがAGOAとは無関係に変化しているかもしれない。AGOA対象財は主に農産品と繊維品らしいのでAGOA非対象国がAGOAとは無関係に技術進歩などの要因ででそれ以外の工業品に輸出をシフトさせているとしたらこのTriple-difference estimatorにはバイアスが生じうる。

とはいうものの,通商政策の実証では例外的とも言えるくらいの注意深い実証であり貢献は大きいと思う。

アメリカへの輸出は増えてもその分ヨーロッパへの輸出が減っていたりしたら,アフリカ諸国の成長にとってのインパクトはなかったのではないかとか,AGOA非対象国がAGOA対象国を迂回貿易の中継点として利用していたのではないか、とか言う点をチェックする必要がある。セミナーでも質問はこれらの点に集中していたと思う。著者は論文内でこれらの不安を払拭するある程度の証拠をあげている。

輸出が増大したと言えそうなことはわかったが、そのことによって、所得はどの程度増えたのか、とか企業の生産性がどの程度増えたのか(Learning by Exporting)とか、資源再配分がどの程度行われたのか、などを検証する作業はこれからだと思われる。つまりもっと多くの論文のネタがあるということだ。

2005年09月24日

●銀行の国有化の効果

Financial Development, Bank Ownership, and Growth. Or, Does Quantity Imply Quality?
By Shawn Cole

インドの1980年の銀行の国営化が地域金融に与えた影響の実証論文です。所有権(変更)の効果の実証というのは、所有権(変更)が外生的でないことからなかなか説得的に行うのが難しいのです。が、この論文は、一定以上の規模の銀行だけが国有化されたという事実を用いて、その一定以上の規模にぎりぎり届かなくて国有化されなかった銀行の支店だけがある地域と、一定以上の規模にぎりぎり届いて国有化された銀行の支店だけがある地域を比較する方法 (Regression Discontinuity)で国有化が資金の潤沢な供給をもたらしたけど、産業構造変化などの質的な効果はもたらさなかったということを示しています。